ジャンボコインルーティーンの魅力


最も破壊力のあるコインマジックがジャンボコインルーティーンです。この演技後は何を見てもすごさを感じなくなる問題があります。演じるのであれば、全ての演技の最後にすべきです。今から30年以上前ですが、強く記憶に残ったことがあります。広い部屋で2カ所に分かれて、子供も含めた一般客に見せるクロースアップの催しが開催されました。演者が巡回して演じる方式です。一人の演者が最後にフレッド・カップスのジャンボコインルーティーンを演じました。演技後には部屋中に歓声が響きわたり、この演者が別のテーブルで演じる時が大変な状況になりました。先程見た子供達が集まってきて、「出るどー、出るどー、出たー」と騒ぎ立てます。結局、他の演技者の演技は印象が薄いものになりました。そのようなこともありますが、これほど頼もしい演目もありません。上手く使えば最高級の演目です。マーチン・ルイス、フレッド・カップス、根尾昌志の方法が代表的です。この3人の方法の違いと、ジャンボコインに関するマジックの歴史を報告させて頂きます。

ジャンボコインルーティーンの3人の方法の違い


1966年の”The New Modern Coin Magic”には、客から借りた5セントコイン(ニッケル、直径2.1センチ)が、直径7.6センチの大きさになる現象が発表されていました。1971年のDerek Dingleは、コインアセンブリーのラストに余分なコインを使っていると告げて、1枚のカードの下よりカードに隠れるサイズの大きいコインを出現させています。なお、1976年のポール・ハリスは、ずらして重ねた2枚のカードの下より7.6センチのコインを出現させていました。1974年の”Bennett’s Best”では、直径10センチのポータブルホールの布の下よりビッグ・ハーフとペニーを出現させています。しかし、これらは1段階の大きくなる現象だけでした。大きくなることをメインして、2段階に大きくしたのがマーチン・ルイスです。1973年頃に発行された彼のレクチャーノートには”The Big Coin Production”として発表されています。それに大幅な改良を加えて世界的に有名にしたのがオランダのフレッド・カップスです。彼が1973年にアメリカを訪れた時にマーチン・ルイスの方法を見て改良を加え、1976年にイギリスのケン・ブルックの店から100個限定で発売されます。世界中のマニアの間で大きな話題になりました。カップスの場合は3段階にコインが大きくなります。カップスの方法の影響を受けて、日本の五円玉を使い、効果的で演じやすい方法に改良されたのが根尾昌志氏でした。根尾氏の方法も3段階大きくなります。

カップスの方法の別の大きな違いが、立ったままでも演技ができることです。マーチン・ルイスの場合は、大きい2種類のコインをいずれも膝の上にセットしていました。カップスはそれをなくし、最後の特大のコインは身体から簡単に取り出しが可能なようにしていました。問題はそれを行うのに準備が必要なことです。根尾氏は二人のよいところを取り入れて、実践的で楽な方法にされていました。さらに、3人の違いが大きくするコインの種類にもありました。マーチン・ルイスはペニーと1ドルコインを使って演技が始まります。ペニーが1ドルサイズのテキサスペニーにかわり、1ドルコインが特別に大きい直径12センチ程のコインになります。カップスの場合は、ツアー中に見つけた4種類の大きさのチャイナコインを使っています。小さいチャイナコインと数枚のハーフダラーコインで演技が始まりますが、その後このチャイナコインが3段階で大きくなるわけです。根尾氏の場合は、日本の五円玉を使って3段階で大きくしています。五円玉は現在も使われているコインであり、黄色で穴が空いているので他のコインとの区別がつきやすい利点があります。現在は分かりませんが、昭和時代は観光地のお土産として各種の大きさの五円玉が売られていました。

3人の方法の現象の違い


3人の方法の共通点は、単独に演じるのではなく、何かのコインマジックを演じてからこの現象に続けています。マーチン・ルイスの場合は、特に作品名を挙げていませんが、飛行現象を行ってから続けていると記載しています。その後、客から1枚のペニーを借りて、1ドルとペニーの入れ替わり現象を行います。しかし、両手の指を使って位置を入れ替えるだけのギャグです。本当の入れ替わり現象として、4つ折りのハンカチの下へ1ドルを置き、右手にペニーを入れると1ドルになり、ハンカチを取り上げると1ドルサイズのテキサスペニーが出現します。このテキサスペニーを右手に入れると元のペニーに戻り、テーブル上のハンカチを持ち上げると、テーブル上に直径12センチ程のジャンボ1ドルコインが出現します。
フレッド・カップスの場合は、現象を紹介するだけでも長くなるのですが、日本語できっちりと書かれたものがなさそうですので、長くなりますが書くことにしました。まず、前段階で彼が実際に演じている数種のコインマジックを解説しています。最初に小銭入れから6枚のハーフ・ダラーを取り出して3枚づつに分け、1枚づつ移動するEddie Fechterの”6-4-5 coin”を演じます。次に小銭入れから1枚のチャイナコインを取り出し、6枚のハーフも使って、コイン・スルー・ザ・テーブルを演じますが、枚数が多いと言って4枚のハーフだけでも行います。さらに枚数を2枚にしてIrelandのコイン・アクロスに続けています。この後でチャイナとハーフを1枚づつ使ったジャンボコイン現象の第1段となります。2枚を左手に握り、右指でチャイナを抜き出してハーフに変えます。左手に残っているコインが何かを質問して左手を開くと少し大きいチャイナになっています。小さいチャイナは横に置いていた小銭入れの下から現れます。第2段は、この大きさが異なる2枚のチャイナを使って入れ替わりを見せると告げます。右手でポケットから折り畳んだハンカチを取り出して左手に渡し、2枚のコインを入れ替えると言います。実際に行うのは、右親指と他の指を各コインの上へ置いて単に位置を入れ替えるだけのギャグです。2枚のコインの上へハンカチの外端部をかぶせた後、それぞれを取り出してハンカチの上へ置き、再度、1枚づつハンカチの下へ戻します。ハンカチの下から小さいチャイナを取り出して大きいチャイナに変えます。ハンカチの下にあるコインを質問してハンカチを取り上げると、さらに大きいチャイナが出現します。小さいチャイナは、前回同様で横に置いてあった小銭入れの下から出現します。テーブル上にある各種チャイナをさし示して「こちらに小さいコイン。そして、ここに大きいコイン、こちらに一番大きいコインがあります。しかし、本当に大きいコインはここにあるのです」と言ってテーブル上のハンカチの中央を勢いよく引っ張り上げると特大コインが現れます。
根尾氏の場合は、1枚の五円玉と6枚のハーフダラーを使って「コイン・スルー・ザ・テーブル」を演じ、5枚のハーフを小銭入れへしまいます。残りの1枚の五円玉とハーフを左手に握り、ハーフを右手に抜き出して、左手の残りのコインを尋ねます。五円玉と言われたら、左手を開き、大きくなった五円玉を示します。元の五円玉は小銭入れから取り出されます。2つのサイズの五円玉を使って入れ替わりのマジックをすると言って、4つ折りスカーフの外方右側と左側の下へ入れます。外方右のスカーフをめくって大きい五円玉の変化がないことを示します。スカーフ全体をめくると、左側にもっと大きい五円玉が現れます。小さい五円玉は小銭入れから現れます。「これで3つの五円玉がそろいました。小さい五円玉、中位の五円玉、大きい五円玉」といって各五円玉の表裏を見せます。「そして、最後の大きな五円玉です」と言って、スカーフの中央をつまみ、真上へ引き揚げて特大の五円玉を現しています。カップスの方法と比べますと、全体をシンプルにして演じやすくなっています。立って演じることが多いカップスは膝を使わない方法にされていました。しかし、立って演じないのであれば、カップスのようにこだわる必要がありません。もう一つの違いが、消えた小さいコインを小銭入れの下から現すのがカップスですが、根尾氏は中から取り出しています。中からの方が楽で安全性もあります。

その後の作品と上記3作品との違い


1975年の”Another Close-Up Cavalcade”にはKarl Normanの方法が解説されます。これも2段階にコインが大きくなりますが大きな違いがありました。テーブルを使わない方法になっていました。ペニーと1ドルコインを使い、1ドルコインをハンカチに包んで客に持たせます。残りのペニーを1ドルに変えて、客のハンカチを開くと1ドルサイズのペニーに変わっています。このペニーを左手に持って右手へ渡し、客の両手の上へ落とすと、直径7.6センチの特大ペニーとなって落下します。1978年のJohn Mendozaの”The Book of John”の”The Coin Routine No.2”は、もっと派手な現象になっています。やはりテーブルを使いません。ハンカチの中央を左手や右手でつまんで持ち替えるだけで次々と1ドルコインが3枚出現します。その後、直径7.6センチのジャンボコインが次々4枚出現し、さらに、直径15センチほどのコインと直径30センチほどのコインも出現させています。3段階に大きくなり、しかも最後のコインは驚きの大きさです。1982年のDerek DingleのInflationでは、ペニーが1ドルサイズに変化し、最後には7.6センチのペニーになります。1983 年のロス・バートラムの”Money Goes East”では、ハーフを手から手への移動で英国ペニーに変化し、最後はジャンボチャイナにしていました。多数の観客の前でクロースアップマジックを演じる機会が増え、テーブル上での演技よりももっと見えやすい演技が求められる時代になっていました。ジャンボコインが次々出現する意味では違いがないのですが、最初に紹介した3名の演技とは大きな違いを感じます。テーブルを使って2枚の位置の入れ替わり現象を行うように思わせて、一方が大きくなる意外性を繰り返しています。そして、最後に特大のコインが不意に現れます。4つ折りハンカチの中央を摘んで持ち上げることにより、そのハンカチよりも大きなコインが現れた印象を与えていました。
ジャンボコインを使った作品がその後も次々と発表されます。しかし、今回取り上げた3名の方法と同様な現象が発表されなくなりました。1975年のJerry Mentzer著”Super Cents”では、大きいサイズのペニー出現の作品が多数紹介されています。1986年のJerry Mentzer著”Climax Coins Trix With 3 Inch Coins”では、7.6センチのジャンボコインを使う多数の作品を集めた冊子になっていました。また、興味深いジャンボコインの出現方法の解説も登場します。1979年のApocalypse Vol.2 No.6には、Allan Haydenのビジュアルな出現方法を紹介しています。一時期はミスター・マジシャンの根本氏が、効果的な方法だと言ってよく演じていました。1982年のThe New York Magic Symposium 1 に解説のDavid Rothの方法では、直径20センチのチャイナコインをインムパスと穴を使った面白い出現方法でした。1981年のHorace Bennett著”Bennett’s Fourth Book”では、コインの消失と再現の繰り返しの最後に、膝の後部からジャンボのコインに変化させて取り出しています。日本のマジシャンでジャンボコインを使った演技をされていたのが藤井明氏です。コインが大きくなったり小さくなり、最後にはジャンボコインを出現させていました。最近ではジョニオ氏があごヒゲからコインやクシを出現させ、最後にジャンボコインを出現させています。FISM受賞の演技では、ありえない大きさのジャンボコインを出現させて大きな話題になっていました。

おわりに

ジャンボコインルーティーンをコラムのテーマに選んだのは、最近になって数回も根尾氏の演技を見ることができたからです。カラーチェンジングナイフ、マイザーズミラクル、カップ・ヨーグルトなど、いずれにも圧倒されます。その中でもジャンボコインルーティーンの迫力がすごすぎます。カップスの方法とは何が違うのか。その点に興味を持って調べ直すことにしました。シンプルに改良された根尾氏の方法であれば演じやすいのではないかと思いました。2026年6月には根尾氏の200ページを超えるハードカバーの著書が発行されます。ほとんどの作品がQRコードで映像が観れるのも楽しみです。最後に参考文献についてですが、ジャンボコインの作品数が多いので、ここではこのコラムで取り上げた作品を中心とすることにしました。

参考文献

1966 John Giodmaine The New Modern Coin Magic The Big Nickel

1971 Derek Dingle Dingle ’s Deceptions Bonus

1973頃 Martin Lewis Lecture Notes Texas Money

1974 Jerry Mentzer Bennett’s Best A Penny for Your Thoughts

1975 Karl Norman Another Close-Up Cavalcade Change for a Penny

1975 Jerry Mentzer Super Cents ビッグサイズのペニーに 多数の作品

1976 Paul Harris The Magic of Paul Harris The Giant Killer Coin

1976 Fred Kaps Chinese Coin Routine (Big Coin Production)

1978 John Mendoza The Book of John The Coin Routine No.2

1979 Allan Hayden Apocalypse Vol.2 No.6 Jumbo Coin Jumbo

1981 Horace Bennett Bennett’s Fourth Book Big Coin Routine

1982 David Roth The New York Magic Symposium 1 Chinese Coin Surprise

1982 Derek Dingle The Complete Works of Derek Dingle Inflation 

1983 根尾昌志 Close-Up ジャンボ・コイン・ルーティーン

1983 Ross Bertram Bertram on Sleigh of Hand Money Goes East

1984 Fred Kaps Chinese Coin Trick 解説冊子

1985 Martin Lewis Eric C. Lewis著 Martin’s Miracles Texas Money

1986 Jerry Mentzer Climax Coins “Trix With 3 Inch Coins”

2026 根尾昌志 Neo Classics Jumbo Go-yen Routine